白銀の世界に、静かに立っていた  ー旅シリーズ②

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昔、小説で読んだことのある、錦繍の蔵王。


キュンパスの存在を知ったその日、
ずっと憧れていたその地に吸い込まれるように、チケットを購入した。


わたしの胸が、小さく音を立てた。


旅の始まりは期待と嬉しさに満ちている。


蔵王温泉。
天気は曇、そして少しの雪。


雪といっても東京に降る雪とは違った。
小さな氷の粒。
顔に当たると冷たくて痛い。


この旅の目的は樹氷。
錦繍とは違うけれど、きっと神秘的だ。


雪が舞う街に、硫黄の匂いが立ち込めていた。
道路の下を潜るように流れる川からは、蒸気が上がっている。


温泉でしっかりと身体を温め、ロープウェイで山頂へ向かう。


麓の天気は晴れに変わっていた。
今日は、美しく輝く樹氷が見れるかも知れない。

だけどそんな期待もむなしく、
ゴンドラに乗り込む頃には、すっかり太陽が隠れてしまった。

標高が上がるごとに、雲は厚くなっていく。


それでも、
上から望む、氷の粒を纏った針葉樹の姿は神秘的だった。


白銀の世界に白く染められた木々の濃淡は、
画の具で描かれたように見えた。


そして、ゴンドラを降りる。

山頂は少し吹雪いていて、
剥き出しの私の顔は一気に冷たくなる。

写真を撮る手の感覚がなくなっていく。


あたりは白く、霞んでいた。


時が止まったような世界で、わたしはひとり立ち尽くしてしまった。


そこには樹氷たちが、静かに立っていた。


――麓に近づくほどに、
雲は薄くなり太陽が顔を覗かせる。

山頂の樹氷とは違い、葉の影が見える山腹の白い木々たちは、雲間から差し込む太陽の光に照らされて、
キラキラと光っていた。


新幹線の時間が迫る。
段々と駅が近づいたそのとき…


キュンパスが、ない。

通常料金で再購入。


『この旅はそんなに安くないぞ』

蔵王が、言った。

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